一般社団法人 日本私立大学連盟(JAPUC)

04目から鱗が落ちる活用法 ―アサーティブアプリの可能性から―

志村 知美
追手門学院大学 教務部
アサーティブ課課長

はじめに

2014年度に入試改革としてスタートした「アサーティブプログラム・アサーティブ入試」は、高校生の学ぶ意欲・姿勢を育むことをコンセプトとした。そして、この取り組みの目的は「本学第一志望の入学者を増やすこと」である。
当時、入試のどこを具体的に改革するのかを見極めるため、大学進学と大学生活に対する学生の本音を調査すべく、学生の輪に飛び込んだ。驚いたのは、「不本意入学」だと話す学生の多さであった。学生自身に「不本意入学」だと言わせないため、高校生を大学が求める受験生像・入学生像に育成するため、入試前教育と向き合わなければならないと考えた。この取り組みを進めた結果、2011年度の調査では、本学第一志望の学生の割合は12.7%であったが、2019年度の調査では、52.5%までに上昇した。アサーティブの取り組みは第一志望の学生を入学させることに大きく貢献したと言える。
これからご紹介する「アサーティブアプリ」は、前例のないアサーティブの取り組みを発展させていく試行錯誤のなかで実現した取り組みである。

アサーティブアプリ導入背景

アサーティブアプリの導入を決めた当時、3つの問題を抱えていた。
①入学後のアサーティブ生の成績(アサーティブ入試の目的は、大学で学ぶ意欲と学力の確認であったものの、成績優秀者が集まると期待されすぎていた)
②板書を書き写す高校時代と板書をしない授業などでノートの取り方に悪戦苦闘(高校と大学のギャップ)
③アサーティブスタッフの活躍の場が少ない(悩める高校生のために何かしたいと誕生したアサーティブスタッフだが、活動機会がアサーティブガイダンスのみであった)
これらの解決策を模索していた時、情報メディア課の職員から、アプリ企画を紹介された。アプリをダウンロードするのも躊躇するアナログ筆者は、内心「活用できるのだろうか」と消極的であった。アサーティブスタッフに導入の相談をしたところ、「絶対に高校生は、ネットでアクセスするより、アプリの方が使いやすい。予算的に問題なければ作るべきだ」と即答されたのである。具体的な説明を受けると、アプリの準備も費用も驚くほど良心的であり、こんなに簡単にアプリが作れるのかとアナログ筆者には目から鱗が落ちた瞬間であった。
こうした背景から、アサーティブスタッフをご意見番に、前出の問題解決の対策を含めたアサーティブアプリの活用方法について検討を始めたのである。

アプリの機能とその目的

まずは、中身より外見を優先させた。全体的なデザインはアサーティブスタッフの意見を参考にし、メニュー上段にあるスライドは、
①多くの高校生は、自分の進むべき道を決められず迷っているだろうが、進路としっかり向き合うためには考えることが大切であるというメッセージとしてコンパスのデザインを採用
②大学名に地名がついていないため、大阪を連想するデザインを詰め込んだ
メニューについては、本学キャラクターの「おうてもん」を使用し、前出の3つの問題の課題として、
①学力向上は、本学が独自に開発したMANABOSS(マナボス)システムの利用を促進できること
②スマホの普及により文字を書くより、写真や動画で事が足りる場合が多くなっているため、記入式のアサーティブノートを制作したが、その活用率を向上させること
③アサーティブプログラム・アサーティブ入試の体験談や効果、学生生活などの情報発信ができることにより、アサーティブスタッフ活動のモチベーションを向上する
少なくとも、上記3つの内容を解決できるような対策支援ツールとしても検討した。その結果、メニューには広報ツールと教育ツールを混在した構成となってしまったのだが、これも目から鱗が落ちたのである。

広報ツール

アサーティブの知名度だけでなく、認知度向上を目的とした広報的な情報発信としての役割である。プッシュ通知機能を使い、アサーティブガイダンスやオープンキャンパスなどイベントを告知。また、アサーティブスタッフの活動写真やアサーティブ課職員を似顔絵(無料ソフトで作成)付きで紹介。もちろん、大学HPへのリンクなども掲載している。

教育ツール

大学生になる準備学習として、基礎学力向上とノートの取り方を身につけることを支援する教育的な役割である。アプリ内から学習支援システムMANABOSSへ接続ができることにより、アクセスが便利となった。アプリだけの効果とは言えないが、MANABOSSの利用は、年々向上している。また、メニューの「ムービー」では、学生生活やキャンパス風景などの動画を掲載しているが、導入最大の目的は、オンデマンドの活用である。
アプリ導入後から、アサーティブガイダンスではレジュメの配布を止め、同時にアサーティブノートに「ガイダンスメモ」というページを追加した。アサーティブガイダンスでは、資料に頼るのではなく、聴く姿勢を養い、要点を書き留めることを意識してもらうこととした。聞き取れなかった部分やノートを見直す時には、アプリ内の「ムービー」でガイダンスの動画を見直すことができる。ガイダンスの始めに、先輩学生が大学でのノートの取り方に苦労した事例を紹介し、大学生になる準備の一つとして、ノートを取るためにメモを取る練習をしてほしいと説明をしている。これらは、高校生にも大学生にも教育的なツールとなっている。



導入から4年目を迎えて

アサーティブプログラムの検証のため、アサーティブ入試で入学した新入生のヒアリングを毎年4月末から6月中旬頃まで実施している。アプリ内の似顔絵は、似ている・似ていないと会話を始めるきっかけと緊張をほぐすことに役立つこともある。
レジュメの廃止と、ノートの活用については、概ね好評である。メモを取るのは簡単だと思っていたが、大学でのノートには創意工夫が求められることを考えたら、高校の授業でノートのまとめ方を意識するようになったなど嬉しい体験談を話してくれる。言うなれば、高校時代に取り組んだことが入学後に役に立つかどうかは、評価の大きなポイントなのである。
ノートの仕様についても意見をもらうことがある。メモを書くために罫線のページを増量したが、罫線ばかりではなく方眼やドット入りのページもあると使いやすいと言われた時も目から鱗が落ちた。確かに近年、ノートを美しく書くなどのドット入り罫線ノートや自由に書ける方眼ノートが人気であり、ルーズリーフ愛用者も罫線ではなく方眼を好む傾向のようである。罫線ノート世代の筆者も、今では方眼ノートも愛用している。
このあたりのご意見番学生がアサーティブスタッフとなり、現在のアサーティブノートの制作者たちである。
反省点としては、メニューにある「チケット」の活用である。飲食店などのアプリでは「クーポン」の部分になるものだ。これの活用方法が未だに見いだせないのである。受験料の割引や赤本の引き換えに使うのは難しいだろう。そもそもアサーティブアプリの趣旨から外れてしまう。
まだ、未知なる可能性を持つメニューのアイデアを引き出せておらず、いつまでたっても「準備中」の看板のままである。

アプリを活用して

2019年4月、アサーティブ課は新キャンパスへ移転した。1年生全員が新キャンパスで学ぶため、高校から大学への接続を支えるための移転であった。新しい事務室は、事務機能を真ん中に、教室スペースと学生の溜まり場スペースを左右に配置した。コンセプトは、目配り・気配り・心配りの学生支援である。学生たちが集まり(アサーティブ生以外も)、各々に過ごしている。
こうした環境の中、アサーティブスタッフの活動内容について議論する風景も日常となってきた。ある時、アサーティブスタッフの1年生4人とPBL(Project Based Learning:問題解決型学習。以下「PBL」という)が話題となり、アサーティブ課版PBL(正課外)として「アサーティブアプリの活用」を持ちかけた。しかし、あまりPBLのイメージがつかめていない様子であったので、手始めに他大学のPBL成果報告会に参加することにした。これが想像以上、期待以上に彼らの「やる気スイッチ」だった。各ポスター発表に耳を傾け、メモをとり、発表者を質問攻めにした。終了後も、情報共有・意見交換・アサーティブアプリの活用と、議論が尽きない帰路となったほどである。とりわけ学生たちは、動画への興味関心を高く示した。すかさずアプリ内のムービー制作から着手することを提案した。その後の彼らのチームワークは素晴らしいものであった。仲間を増やし、動画編集ソフトの講習会を開催し、コンテンツについて検討を始めた。筆者の出番は、動画編集の講師を情報メディア課に依頼した程度である。
学びの場におけるアプリの活用は、広報的な情報発信だけではなく、アサーティブスタッフの学びのきっかけになり得ることがわかった。これからどのような動画配信ができるのか「わくわく」してしまう。彼らの限りない可能性から、目から鱗が落ちるアイデアを引き出し、さりげなく原石を磨かせ、価値のあるものへとしていくことがアプリ導入を決めた筆者の責任である。
アサーティブ課版PBLを通じて、高校時代の自分が欲しかった情報を後輩に伝えるため、彼らは自身を振り返り、相手の立場で物事を考えることができるようになるであろう。そして、その思いをこれから始める動画制作を通じ、相手に伝える表現方法を見いだしていくことであろう。アサーティブアプリは、PBL教材としても成立したのである。
学生の声を真正面から受け止めることにより、目から鱗が落ちる教育効果のある広報ツールに出会えるかもしれない。これからもアプリだけでなく、教育的な目配り・気配り・心配りで筆者にできる学生の成長支援を続けていきたいと願う。