03卒業生との
「つながり」を再び─キラーコンテンツによる寄附拡大の可能性─
藤元 健史
筑波大学事業開発推進室主幹
背景
1872年、明治政府によって我が国初の高等教育機関として創立された師範学校を創基として、東京教育大学に至る歴史を経て、1973年に「新構想大学」として誕生したのが、現在の筑波大学である。
本学をはじめ全国の国立大学法人においては、2004年の法人化以降、厳しい財政状況下での運営を余儀なくされており、多様な財源確保が求められてきた。このような中、本学では2009年に「筑波大学基金」を創設し、学内外に教育研究活動等への理解と支援を呼びかけてきたところである。
本学は2023年に創基151年開学50周年を迎えるが、その記念事業を成功させることはもとより、今後さらなる本学の発展のためにも基金獲得は不可欠なものと捉えている。しかしながら、やみくもに寄附のお願いをして回るのでは非効率この上ないと言わざるを得ない。どのような層に向けてどのような戦略を展開するのかをまず考える必要があった。
卒業生との関係性
検討の末、やはり大学に最も理解を示していただけるのは、実際に我が校で学生生活を送った卒業生であるという結論に至り、卒業生をメインに基金事業を推進することとした。ただ、これまで大学から卒業生に対しての情報発信を積極的に行ってこなかったこともあり、大学と卒業生とのつながりは希薄になってしまっているのが現状だ。もちろん、在学中は愛校心あふれる者も多くいたであろうが、卒業して社会に出れば、新しい環境に順応することに必死になり、大学への関心が薄らぐことは容易に想像できる。それに加えて大学からのアプローチが一切届かなければ、大学への帰属意識が途切れてしまうのは至極当然のことであるといえよう。
卒業生との関係を再構築
しかし一方で、関心が薄らいではいるものの、記事や人づてに母校の活躍を報じるニュースに触れると、それはそれで嬉しく思ってしまうのが卒業生の心理でもある。卒業生と大学の関係を再び密にしていくには、このように大学が上げた大きな成果を積極的に広報していくことが一つのきっかけになると考えた。
では、いざ大学の成果が大々的に広報されるとなった場合、どのような媒体によって周知されるのか。今考えられる主な手段としては、大学の基幹ホームページ上で広報することであろう。大学のホームページでは、大学の最新のニュースやイベントなど、全国ニュースになることはなくとも、卒業生が見たいと思うような大小様々な記事が至る所に掲載されてはいる。しかし、そうした情報は、Webページの特性上ユーザー側が見ようと思ってアクセスしなければそのユーザーの目に留まることはない。言い換えれば、ユーザー側の自発的な情報取得に頼らず、不特定多数の目に留まるよう情報発信を行う仕組みを考えなければならないということである。
この需要に応えたのが、スマートフォンアプリであった。スマートフォンの普及率が国民の8割を超える昨今、Webの閲覧や各種手続きなどは、パソコンに頼らずとも手元のスマートフォンでほぼ完結できる時代に入りつつある。そうした環境の大きな変化に着目し、寄附募集についても、スマートフォンを活用すれば人々の目に留まりやすく、手軽なシステムを構築すれば寄附件数が大幅に伸びるのではないかと考えた。
アプリの機能
本学のアプリは、大きく二つの機能を備えている。一つは、本学で取り組まれているユニークな研究事例や、スポーツの分野では国立大学でありながら国内トップレベルの部を有する体育会の活躍、芸術の分野で活躍する教員および学生(卒業生含む)の個展や企画展の情報、著名な先生方による講義の動画配信、学生たちが日々取材を重ね学生目線の話題が豊富な大学新聞などの各種メディアの記事を配信する機能である。
そして、もう一つは、特別なニュースや話題を、アプリ起動時にポップアップ画面でお知らせができる機能である。例えば、本学の学生や卒業生が大会等で活躍した時には、そのニュースを流すと同時に、本学の体育関係を応援するための寄附をお願いするポップメッセージを掲出し、その場で寄附ができるような仕組みとなっている。
キラーコンテンツ
とはいえ、アプリで大学や学生のニュースを流すことで本当に寄附が集まるのか、議論を重ねても誰もが納得する答えを得ることはできなかった。そんな不安を抱えながら開発を進めていた矢先、我々の取組を肯定するといっても過言ではない出来事があった。
それは、昨年10月、本学陸上競技部駅伝チームが、箱根駅伝予選を突破し、26年ぶりとなる本戦出場を決めたことである。テレビ中継で順位が読み上げられた直後から、本学の寄附金口座への振り込みが相次ぎ、クラウドファンディングによる支援も相まって、大々的な広報を実施していないにもかかわらず、約2千万円の支援が寄せられた。そして、年が明け、箱根駅伝当日には沿道に多くの卒業生が集まり、大声を張り上げ後輩たちを必死に応援する姿が至る所で見られた。この光景を目の当たりにし、まさに大学と卒業生がつながったことを強く実感した。
我々は、「箱根駅伝」というコンテンツの絶大な影響力を思い知らされるとともに、これに類するキラーコンテンツを、適切かつ迅速に周知することができれば、多くの人の心を動かし、さらなる寄附の獲得につなげることができると確信した。
課題と今後の展望
2020年1月に「筑波大学アプリ」をリリースし、現在は、多くの卒業生にこのアプリを入れてもらうことに力を注いでおり、本学卒業の起業家やスポーツ関係者等の著名人からSNSを通じて拡散してもらうように計画を進めている。
また、在学時から多くの方にアプリを利用してもらうために、在学生が欲しい新たなコンテンツの導入を議論しているところである。
具体的に導入を考えている機能の一つとしては、地図機能の追加である。本学は南北に約4km、東京ドーム約56個分の広さがあるため、学内に不慣れな新入生、普段利用しない教室に向かう在学生等がそれを利用しながら学内を移動できるような機能を追加することで、多くの需要が見込めると考える。
また、本学の学生たちの中には、自分たちでアプリを製作し、広く在学生に利用してもらおうと活動している学生たちもおり、そういった学生たちから生の意見を取り入れ、利便性向上に努めていきたい。
最後に、本学は、全国的に見ても珍しい体育・芸術・医学分野を同一キャンパス内に有する総合大学であり、その学際性の高さから、分野横断的な最先端の研究が数多くなされている。さらに、本学は先述のとおり体育の学部を有しており、多くのオリンピアン・パラリンピアンを輩出しているので、今後どんなキラーコンテンツが生み出されるか期待が膨らむ。