03[早稲田大学]文化の発信地としての
「文学の家」
西尾 昌樹
早稲田大学国際文学館事務長
はじめに
早稲田大学国際文学館(通称:村上春樹ライブラリー)は、2021年10月1日に開館した。
卒業生でもある作家の村上春樹さんの所蔵資料の寄贈・寄託を受け、新設された「文学の家」(The Waseda International House of Literature)である。
新宿区にある早稲田キャンパスの既存の校舎が、建築家で本学特命教授の隈研吾さんの設計でリノベーションされた。地下1階地上5階にギャラリーラウンジ、オーディオルーム、スタジオ、階段本棚、展示室、カフェ、研究書庫、研究室、事務スペースがコンパクトに配置されている。大規模な改装には多額の費用が必要であったが、柳井正さん(株式会社ファーストリテイリング代表取締役兼社長)のご支援により実現することができた。
1. 居心地の良い空間
現在は、感染症対策のため90分間4シフトの予約定員制をとっており、広く一般の方や教職員、学生100〜150人が毎日訪れる(地階は出入り自由)。1階のギャラリーラウンジには、村上春樹さんの著作、様々な言語への翻訳がならべられ自由に手に取って読むことができる。また1階から地階への階段の両側には本棚が広がり、村上作品を起点にしてテーマ別に書籍が配架され、思いがけない本との出会いの場となっている。地階にも書棚は広がり、カフェも併設されている。2階の展示室では、「音/言葉を刻む、ジャズと文学」展を開催中である。
SNSで来館者の感想を拾ってみると、次のような言葉があふれている。
「本を読んだり、ジャズを聴いたり、ぼーっとしたり、最高すぎる」「何時間でもいたい。90 分の制限時間は短い」「いくらでも本が読みたくなる空間」「木をふんだんに使った空間が心地よい」「ここに住みたいくらい」
隈研吾さん独特の木を多用した開放的な空間と多くの書籍と音楽さらにカフェの融合が想定以上の効果を生んでいるようだ。これまでのキャンパスにはなかった、ゆったりと文学と音楽に没入できる場所。その居心地の良さについては、評価いただいているようである。
2. 単なる記念館ではないオープンな場所に
早稲田大学国際文学館は、①村上春樹文学研究②国際文学研究③翻訳文学研究を柱に世界中の文学研究者や愛好者が集う研究拠点であり、一般的な著名作家の記念館の枠を越えたオープンな場所、文化の発信地となることを目指している。このことは村上春樹さんが望まれていることでもある。 文化発信の実践としては、昨年10月の開館以来、「Authors Alive! 〜作家に会おう〜」を連続開催し、村上春樹さん、小川洋子さん、川上弘美さん、伊藤比呂美さん、村田沙耶香さん、朝井リョウさん、堀江敏幸さん、マーサ・ナカムラさん、水原涼さんがこの場所で自作の朗読やワークショップを開催した。また、今年に入り、「WASEDA CAMPUS LIVE」と銘打ったコンサートを企画し、小澤征爾音楽塾、スガシカオさん、リチャード&ミカ・ストルツマンさん等ジャンルを越えたライブを実現することができた。これからは、学生を巻き込んだ様々な企画も検討していきたいと考えている。
[写真]内部を暗示するファサード
[写真]洞窟のような階段本棚