一般社団法人 日本私立大学連盟(JAPUC)
特集

多様化をみせる寄付金プロジェクト 多様化をみせる寄付金プロジェクト

私立大学は、授業料や入学金などの学生生徒等納付金収入が主な収入の柱となっているが、18歳人口の減少により大学経営は学納金収入に依存しただけでは厳しい状況になっている。グローバル化やダイバーシティが進む社会的な背景において卓越した研究力と質の高い教育を推進していくために、また大学運営のための安定した財務基盤を構築・維持するためにも、事業収入や資産運用、さらには国庫をはじめとした補助金収入など外部資金の獲得が喫緊の課題となっている。
特に「寄付金収入」は、大学が持つあらゆるステークホルダーからの応援資金として期待が高まっているが、日本の私立大学は欧米の大学に比べ、寄付金収入の割合は圧倒的に少ないと言われている。寄付文化の違いが主な理由であるが、大学側のアプローチ次第で、中長期に収入を増やせる可能性は高い。
最近では、卒業生をメインターゲットとした寄付事業や自治体と連携し、ふるさと納税を活用した寄付事業、クラウドファンディングなど、各大学が工夫を凝らした寄付事業を展開している。 今回の特集では、特徴的な取り組みを行っている大学の寄付募集戦略をご紹介いただき、取り組みの中から、効果や課題、今後に向けたヒントを共有する機会としていきたい。

1万円募金キャンペーン―母校にエールと支援を―

平野 真早稲田大学総長室社会連携課長

はじめに

2020年4月に早稲田大学では新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、経済的理由により不本意にも修学をあきらめる学生を誰一人出したくない、経済困窮学生を救うためのあらゆる支援を行いたいという決意のもと、「新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急支援金」への寄付募集(以下、「新型コロナウイルス学生支援」)を開始し、卒業生を中心に短期間で多くの寄付が集まった。これまでの本学の傾向では、60代以降の卒業生による寄付の占める割合が多かった中、「新型コロナウイルス学生支援」では 20代30代の若い世代の卒業生からの寄付も数多くいただいたことが大きな特徴であった。この結果も踏まえ、緊急時だけでなく、若い世代を含む多くの卒業生が大学・学生の「今」の取り組みや活動を知り、無理のない範囲で母校を応援・支援してもらうこと、そしてそれを受ける学生にも伝えることを目的とした新たな取り組み「with ワセダ~母校にエールと支援を~1万円募金キャンペーン」の開始に向けた検討を行った。

1 with ワセダ~母校にエールと支援を~1万円募金キャンペーン

新たな募金キャンペーンの開始にあたり、大きな目標として⑴65万人(当時)の卒業生のうち、寄付未経験者や寄付になじみのない若年層を中心に改めて大学に興味を持ってもらい、緊急時でなくとも継続的に大学を応援してくれる寄付者層の拡大を図ること、⑵支援を受けた学生が将来卒業生となった時に、今度は自身が学生を支援する側になることを強く意識する『持続的な寄付サイクル』を構築することの2点を掲げた。このことは本学が創立150周年に向けて策定した「Waseda Vision 150」における目標のひとつ「教育研究事業を永続的に発展・強化させるため、財務体質の強化を図る」に沿うものである。なお、本キャンペーンのタイトルを「with ワセダ~母校にエールと支援を~1万円募金キャンペーン」としたのは、金額をあえて1万円と明示することにより寄付のハードルを下げ、さらに母校に寄り添い、学生にエールを贈ってほしいとの考えを分かりやすく伝えたかったためである。

キャンペーン特設Webサイトの画像
キャンペーン特設Webサイト

2 「寄付」よりも重視したこと

実際の検討において「寄付してもらうこと」よりも重視したのが、学生の活躍を中心に「早稲田の今」を伝えることにより、大学にほとんど関心のない卒業生に改めて大学や学生の取り組みに注目してもらい、今の大学を応援したいという気持ちになってもらうこと、そして、その気持ちを学生にも共有することであった。前述の「新型コロナウイルス学生支援」の際には、寄付申込時に困窮する学生に対して多くの方から温かいメッセージをいただき、母校そして後輩を思う気持ちに教職員一同、本当に感激した。それと同時に、普段は大学と接点がなくても、精神面、経済面の両面から支援したいという気持ちを持つ卒業生は潜在的に多くいることを強く実感した。本キャンペーンでは、この卒業生の後輩に対する「想い」を掘り起こし、同時に学生にその「想い」をしっかり届けることを重視した。支援だけでなく「想い」も含めた「母校を支える輪」が改めて次世代へと受け継がれる契機にしたいと考えたからである。その他、若年層からの寄付拡大を目指し、これまで本学で行ってきた募金の取り組みとは異なる工夫を行った。その概要を次章に記す。

3 キャンペーン概要

「with ワセダ~母校にエールと支援を~1万円募金キャンペーン」
実施期間:2021年1月~2022年3月(1年3カ月)

①卒業生に対して、学生への応援メッセージの依頼と学生のための寄付依頼を同時に展開した。卒業生からの学生や大学への応援メッセージは特設Webサイトで紹介するだけでなく、キャンパス内におけるデジタルサイネージなどの広告媒体を活用し、多くの学生の目に触れるようにした。また、卒業式においても卒業する学生への応援メッセージとして大々的に紹介した。
②特設Webサイトで大学の取り組みや学生の活躍を効果的に紹介した。大学内には大学の取り組みや学生の活躍を伝えるWebサイトが多数あるが、その記事を特設Webサイトに複数埋め込むことにより、新しいニュースや学生の活躍をワンストップでタイムリーに閲覧できるようにし、「動きのある」Webサイトを構築した。
③寄付金の使途内容を明示し、寄付者が希望する使用目的を選択できるようにした(使途内容は次の4点:「学びをとめないための奨学金」「障がい学生への修学支援」「先進的・実践的教育への挑戦」「早稲田スポーツの強化」)。集まった寄付金額もタイムリーに公開し、「寄付実績の見える化」を図った。
④広報室および卒業生の組織である校友会と連携し、紙媒体やメール、SNSなどの広報ツールを最大限活用してキャンペーン内容を広く周知した。特に、学生へのメッセージや寄付特典などは効果的に伝えられ、実際の寄付につながっただけでなく、卒業生や学生が大学の取り組みや目標に興味を持つことにつながった。
⑤新規寄付者を獲得するため、寄付に対する返礼品として、寄付者全員を対象としたオリジナルマスクケースに加え、年に2回抽選による限定記念品をプレゼントした。
⑥気軽に寄付をしていただくことを目指し、コンビニエンスストア専用の振込用紙を作成し、住所が判明している全卒業生に学内広報誌とともに郵送した。

キャンパス内デジタルサイネージの画像
キャンパス内デジタルサイネージ
卒業式の画像
卒業式

4 キャンペーン結果とまとめ

最終募金額:1億3967万1046円
寄付件数:1万1536件
寄付者数:9259名(うち初めて寄付、もしくは10年以上ぶりに寄付した方4314名)

期間中の寄付目標額を1億円としていたが、実際には目標額を大幅に上回る結果となった。本キャンペーンで本学に初めて寄付、もしくは10年以上ぶりに寄付した人数は4300名を超え(総寄付者数に占める割合は46・6%)、寄付者の裾野をさらに拡げる効果があったといえる。前述の「新型コロナウイルス学生支援」においても新規寄付者(もしくは10年以上ぶりに寄付)が占める割合は約50%であり、それと同等の成果となった。また、20代から40代をターゲットにした本キャンペーンでは、通常の募金と比べて40代までの若年層の寄付者の割合が若干高かった(約15%、通常約12%程度)。
改めて、「1万円募金キャンペーン」を通して、応援メッセージや広報室・校友会と連動した広報により、学生たちは多くの卒業生からの応援や支援を実感することができたのではないか。また、卒業生からは自身の経験や想いを応援メッセージとして伝えることで、大学との絆が再確認され、学生を支援する意識が高まったとの意見も多くいただいた。新たな寄付者の獲得だけでなく、母校支援の呼び覚ましや大学の取り組みへの共感を高めることにも成功したと考えている。
「1万円募金キャンペーン」は2022年3月に終了し、その理念を引き継ぐ形で同年4月から新たな恒常的募金「早稲田大学応援基金」を開始した。今後も卒業生との継続的な関係を築き、夢や目標に向かって進む学生たち、世界へ貢献する高い志を持った学生たちを応援・支援してもらえるよう、積極的な寄付募集を通じた取り組みを継続していきたい。