一般社団法人 日本私立大学連盟(JAPUC)
寄稿

[私大連フォーラム2022 × 大学時報連動企画]地域・社会連携活動が学生にもたらすもの ~私大連フォーラム2022 報告~ [私大連フォーラム2022 × 大学時報連動企画]地域・社会連携活動が学生にもたらすもの ~私大連フォーラム2022 報告~

外川 智恵大正大学表現学部教授

連動企画概要

私大連フォーラム2022「地域・社会連携活動×大学の学び~連携活動の社会的意義と学生のキャリア形成~」では、3大学の地域・社会連携活動事例をご紹介いたしました。全国の私立大学では日々多くの活動が生まれています。加盟大学の魅力溢れる地域・社会連携活動の取り組みを、期間限定でご紹介してまいります。

私大連フォーラム2022視聴はこちらから

https://www.youtube.com/playlist?list=PLXbCoVKSQta1_dDaeUaX1BxHz5lRpMTUO

はじめに

令和4年度の私大連フォーラムは、初めて学生参加型で「地域連携・社会連携」をテーマに、私立大学で展開される教育活動のうち、地域や社会連携の一場面を切り取り、当該連携活動が学生や地域、企業に与えた影響に焦点を当てた。活動事例を報告した学生や教職員らが参加したパネルディスカッションでは、地域や社会と連携する魅力が当事者から語られた。本稿では、パネルディスカッションのコーディネーターの立場から、彼らが経験を通じて実感した私立大学における学修の多様性や学生の成長等、私立大学の魅力を報告する。

1. 社会的背景

近年、大学などの高等教育機関と地域社会との関わりは地方創生における大きな課題と捉えられ(文部科学省、2020)、「社会貢献」は改正教育基本法(2006)において大学の機能の一つとして位置づけられている。この法改正前後から地域社会や産業界と大学との取り組みが活発になっている(文部科学省、2020)。また、同省は大学改革実行プラン(2012)を展開し、社会との関わりにおいて、持続的に発展し、活力ある社会を目指した変革を成し遂げるため、生涯学び続け主体的に考える力を持つ人材の育成、グローバルに活躍する人材の育成、そして、日本や地球規模の課題を解決する大学・研究拠点の形成、地域課題の解決の中核となる大学の形成等を目指している。
そして、経済産業省(2006)は「社会人基礎力」として、前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力の3つの能力をもとにした12の能力で構成する「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を提唱した。12の能力要素とは、主体性、働きかけ力、実行力、課題発見力、計画力、創造力、発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、規律性、ストレスコントロール力である。
また、同省は大学教育を通して「社会人基礎力」を育成・評価する体系的な教育カリキュラム(企業や行政と連携して課題提供する「PBL(Project Based Learning)」を導入した実践型学習等)と、その取り組みを学内に広げる仕組みを構築するモデル事業(平成19~21年度「社会人基礎力育成・評価モデル事業」)を展開した。
このような背景を受けて、私立大学ではこれらの能力を醸成する取り組みが活発に展開されている。

2. 事例報告

今回のフォーラムでは、日本私立大学連盟に加盟する123大学(111法人)のうち、3大学の事例が報告された。前述の通り、各事例は社会的背景や課題を担うにふさわしいテーマが選択され、社会人基礎力をも担う学修を実践している。

ロードマップに準じて継続的な取り組みを展開同志社大学「京丹後移住プロジェクト~新たな地方移住の仕組みづくり~」

指導者:泉川 大樹氏(嘱託講師、日本アイ・ビー・エム株式会社IBMコンサルティング事業本部マネージング・コンサルタント)
学生:田中 なな氏(商学部4年生)

当該科目は全学共通教養科目の中に位置づけられ、実践型・参加型の学習機会を重視したPBLで、京都府京丹後市丹後町間人(たいざ)地区の地域住民とともに移住促進の仕組みづくりを立案、提案している。
10年前に開始した複数年にわたる継続的なプロジェクトで、指導者の泉川氏は当該科目の10年前の履修生である。履修生は長期的な視野に立って作成したロードマップに沿いつつ、各年度に目標を掲げて地域住民と協働している。
学生は自らの意思で地域や社会に深く入り込み、介入する地域の現状を十分に理解し、問題発見から課題の定義、解決策の実施までを約1年間の履修期間中に手がける。2021年、2022年は地域住民と協働し、「お試し移住ツアー」や移住希望者向けのイベント等を実施した。
当該科目で指導者の泉川氏が重要視している取り組みの一つは「解く価値のある問い」を自ら立てることである。「解く価値のある問い」とは、理想と現実のギャップの産物であり、そのギャップを理解する行為によって主体性や積極性が育まれ、課題という言葉のネガティブな響きがポジティブに変化していくという。
泉川氏は、「学生の主体性を育むために、学生の活動への介入やアドバイスの過不足に悩み、試行錯誤しているが、PBLにおけるこのプロセスはチャレンジングであり、醍醐味である」と話す。
こうした指導者側の意図や姿勢に対し、学生は、理想と現実の差異を明らかにする思考パターンを体得することができ、主体性が身についたようである。当該科目のリーダーとスチューデントアシスタントを経験した田中氏は、チームのマネジメントにおいて主体性を獲得し、リーダーとしてメンバーの適性に配慮することを学んだと語った。
田中氏に代表される履修生の前向きな姿勢や、プロジェクトに参加する地域住民等の発想を促す学生のファシリテーションは地域から高く評価されており、今後の企画継続に期待が寄せられている。

プロジェクトの様子
プロジェクトの様子
田中 なな 氏
田中 なな 氏

国際社会への理解を推し進め、情報リテラシーを学修西南学院大学「KARDIANOIA模擬入管」

指導者:根岸 陽太氏(法学部准教授)
学生:水島 志織氏(国際文化学部3年生)

本プロジェクトはゼミナール活動として位置づけられている。入国管理施設に収容されている、いわば国境の狭間に置かれた人々に寄り添うこと、人々の痛みを感じ受け取る心を育み、入国管理・難民問題に関する知を獲得することを目的とし、4年目を迎えた。活動母体のゼミは学生主体で運営され、法学部以外の学生にも門戸が開かれている。国際法のうち人間に関わる移民/難民法、人権法、人道法、刑事法を中心に自主学習、入管面談や難民申請の体験シミュレーションや模擬裁判などのアクティブラーニングを展開して、実践的に学修を展開している。タイトルのKARDIANOIA(カルディアノイア)は「心(KARDIA)」と「知(DIANOIA)」の造語である。継続した活動であるが、各年度のテーマはその年の履修生が設定している。2022年度は「知る、寄り添う、伝える」のキャッチコピーを掲げてロードマップを作成した。
指導者の根岸氏は、これらの活動を通じて、参加学生に常に自分と向き合わせ、アイデンティティを模索することを促している。また、入国管理という命に直結するテーマを扱うことで情報リテラシーの学修も深めている。
日常の取り組みにおいては、「緊張感を持った発信や表現を通じて、情報リテラシーを養う良い機会となった一方で、支援者として日常的に入管問題に関わる人と指導者である自らとの間にも情報リテラシーのギャップがある」と語り、デジタルネイティブ世代の学生への指導を模索していると明かした。
リーダーの水島氏は「活動を通じて、個人情報の取り扱いという非常に繊細な問題に向き合った。入管・難民問題の重大さ、知識や経験を地域社会に発信することの困難さとともに自責を実感した」と語る。さらに、活動開始当初に抱いていたテーマの大きさやリーダーという立場への恐怖心を、知識の獲得によって払しょくし、チームマネジメントについては「自分よりもそれに長けた人に頼ることを覚えた」と、チームビルディングを通じ、リーダーとして新たな手法を獲得していた。

プロジェクトの様子
プロジェクトの様子
水島 志織 氏
水島 志織 氏

身近な問題に目を向けて、工夫を凝らした職員による学生支援東北学院大学「食べるSDGs~食品ロスの削減 学内パン店との挑戦~」

指導者:日野 直樹氏(学生部学生課課長補佐)
学生:石川 朱莉氏(文学部4年生)

課外活動における学生・大学職員・学内のパン店・マスメディアが連携した企画である。「持続可能と地産地消」に着目し、傷や変形などを理由に廃棄されるリンゴを使った商品開発によってキャンパスにあるパン店の周知活動を展開。生産から消費までの循環を生み出し、日常的な行為がSDGsにつながることを具現化した。継続的な食品ロスの削減、商品開発、SNSマーケティングに取り組んだ本企画はSDGs探究AWARD2021学生部門で最優秀賞を受賞している。
学生支援は職員の業務の一つであるが、その多くは教務や学生相談と捉えられていないだろうか。本企画は、成長促進を学生支援と捉えて社会との連携を促した好例である。指導者である日野氏は社会との学生の連携を促すにあたり、「現実社会との連携企画において、活動開始直後はどうしても学生は受け身にならざるを得ない。このため、プロジェクト・メンバーとして社会人も学生も同等であるという意識で寄り添い、学生が主体性を保てる程度に活動のヒントを出すことを心がけた」と話す。このように職員が円滑に活動できるようにサポートすることで学生は主体的に考え、企画立案、活性化した。
「ゼロからの企画立案に際して、学生の立場を熟知した職員によるサポートは、とても心強かった」と石川氏は話す。盤石なバックアップ体制の下、彼女はオリジナルのリーダー像を構築していた。例えば、月2回のミーティングでは活発な意見交換を促すために、発言の少ないメンバーの意見を汲み取るなどの創意工夫に努めたことで、「物事を円滑に進めるための準備や逆算して考える計画力が定着した」と語った。本プロジェクトの成功のカギは、学生が地域等との「媒介役」を担ったことであり、「社会は変えられる」という自信と希望を獲得していた。

プロジェクトの様子
プロジェクトの様子
石川 朱莉 氏
石川 朱莉 氏

3. 地域連携・社会連携が学生にもたらすもの

連携活動の魅力について、石川氏は「大学はやりたいことができるが、自分で始めなければ何も始まらない。ちょっとした勇気を持つことが大切である」と自覚し、田中氏は「主体性や何ができるかを考える力を得た」、水島氏は「地方の大学でも地方の魅力を世界に発信できる」と目を輝かせた。こうした学生らの感想から地域や社会と連携することは主体性をはじめ、社会人基礎力を醸成するために有効な活動であることを実感した。
また、学生を支える指導者らはPBLの醍醐味について次のように語った。泉川氏は、「PBLは物事への取り組み方、社会活動で大事なスタンス、考え方を学修する場である。VUCA(ブーカ)の時代においては目的を定めてどう取り組んでいくかの姿勢が重要視されるだろう。学生時代に課題を見出し、取り組む体験ができるのは学生にとって非常に意味がある」と語った。そして、日野氏は「職員として正課外の活動で社会経験を積んでもらい、それを正課や研究活動とマッチングすることが高等教育の醍醐味であると考え、大事にしていきたい」と話した。
そして、根岸氏は「PBLは人との関係の中で意見をぶつけ合い、自分の武器は何かを問い続ける場所である。大学の学びでは知識の習得に重きが置かれるがPBLはそうではない。あくまで知識は手段であることを忘れたくない。さらに、自らの知識を誰のためにどう使うか自らに問う作業が大切で、これは大変つらい作業ではある」と述べている。これは私たち指導者側にも問われる人としての在り方だと実感した。
一方で課題もある。学生からは、活動の引き継ぎに際して、学び直しや地域とのコミュニケーションを一から始めなければならないことや、各年度のオリジナリティについて懸念する声が上がった。
こうした現状における具体的な課題とその解決手法について、泉川氏は、「移住促進は数年単位で変化、促進されるものではないにもかかわらず、学生は単年度の関わりであるからこそ、地域とともに『未来』を描き、中長期的な関わりを構築することと課題を外在化していくことがカギを握る」と話す。
また、日野氏は「入学から卒業というサイクル、職員はジョブローテーションがある。プロジェクトの期間や到達目標をどう設定するかが課題である」と言う。根岸氏は「各学年のアイデンティティを尊重したいものの、そればかりを尊重してはプロジェクトを計画的に継続していくことが困難になる。早稲田大学常任理事の井上文人氏が講演で語った通り、ディプロマポリシー(DP)等と結びつけながら定量的に提示していくことも大切ではないか。大学内外の学修を可視化することで、学生は各自の目標に向けた履修科目の選択等が可能となり、学修が点ではなく線となるだろう」と話した。
このように指導者は課題を意識しながら、地域やプロジェクトに関わるメンバー等を踏まえ、現状に即した対応策を模索し、独自の手法で取り組みを充実させていた。私たち指導者には多くの事例や手法を知り、それを目前の取り組みにどう生かし、応用していくかの手腕を育むことが求められている。

おわりに

エリクソン(1959)は大学時代にあたる青年期をモラトリアム時期と評し、自らのアイデンティティを模索する時期であるとした。大学進学率56.6%と、半数以上の青年が大学へ進学する現代(文部科学省2022)において、学生らが自己を確立していくにあたり、大学教育における社会との関わりや他者との価値観の共有等は様々に重要な役割を果たしていると考える。
また、経団連(2021)は「産学協働による自律的なキャリア形成の推進」において、大学の各学部・研究科、企業の各部署等からなる「タテの思考」に加えて、「デジタル」「グローバル」「地域活性化」といった「横断的な視点」から、「学び」や「働き方」に関する課題の把握・対応が重要であり、人生100年時代を迎え、変化の激しいVUCAの時代において、「仕事と学びの好循環」の確立に向けて、学生や働き手が自らのキャリアをデザインする能力(自律的なキャリア形成力)を高めることが重要と産学の認識は一致していると報告した。
私大連フォーラムにおいて紹介した3大学の取り組みはいずれも、これらの現状や認識を補完するものであった。例えば、同志社大学は移住促進によって地域活性化を促し、学生のファシリテーション手法を磨き上げて、地域の課題を浮き彫りにしていた。西南学院大学は入管管理というまさに国際的な社会課題に挑みながら、情報リテラシーを高めていた。さらに、東北学院大学は特産物を活用して地域の活性化を図り、環境問題にも取り組んでいた。そして何より、学生らは活動を通じて主体性を育んでいた。本フォーラムで紹介したのは3事例であったが、全国に存在する600超の私立大学で学生の主体性を育み、キャリア形成力を鍛える取り組みが様々に展開されている。
PBLや地域・社会連携活動を取り入れた授業を担当する一人の教員として、社会に私立大学の取り組みに興味関心を寄せていただき、地域や社会と課題解決のために有機的な連携を築いていきたい。

参考資料

  • Erikson, E.H. 1959.Psychological Issues Identity and the LifeCycle. International Universities Press, Inc. (西平直・中島由恵訳『アイデンティティとライフサイクル』(2011)誠信書房、小此木啓吾訳編(1973)『自我同一性―アイデンティティとライフ・サイクル』誠信書房)
  • 経済産業省(2006)社会人基礎力
    https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/
  • 経済産業省(2018)人生100年時代の社会人基礎力について
    https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/sansei/jinzairyoku/jinzaizou_wg/pdf/007_06_00.pdf
  • 経団連(2021)採用と大学教育の未来に関する産学協議会2021年度報告書
    https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/039_gaiyo.pdf
  • 文部科学省(2012)大学改革実行プラン
    https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/06/__icsFiles/afieldfile/2012/06/05/1312798_01_3.pdf
  • 文部科学省(2020)地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン
    https://www.mext.go.jp/content/20201029-mext-koutou-000010662_01.pdf
  • 文部科学省(2022)学校基本調査
    https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/sonota/1355787_00001.htm